3大地場産業 〜ゆかた〜

ゆかた

水が豊富にあった草加市はかつて浴衣の染め物の町として栄えていた。 しかし、時代の移り変わりとともにその姿も消えて行く。現在浴衣などは印刷技術が進み生地にプリントし安価で売られているのが多い。しかしながら、希少の伝統工芸士である昼間氏の本染浴衣を求める人も数少なからずいる。

◆埼玉県伝統的手芸 伝統工芸士 昼間時良

ゆかた

昭和27年3月27日。中学の卒業式が終わると同時に、染め物の世界に入った。
7人兄弟の長男であった昼間氏は、自立心が幼い頃より芽生えていて早く一人で生活して両親を楽にさせてあげたいと思っていた。そんな折、見つけたのが染め。これなら自分の腕でなんとか出来る、どこからともなくやってくる自信だけがそこにはあった。
昔は、見て覚えろ。それしか教えてくれない。技術は教えてくれない。だったら、そうするしか方法は無かった。朝は一番早くに来て、夜は最後に帰る。もともと自分の腕一本で勝負すると誓った手前、逃げ道も無かった。毎日、毎日ひたすら頑張った。




ゆかた

やがて、職人のなかに欠員がでてまだ「小僧」(※注 現在のアシスタント)ではあったが昼間に任せてみたらという鶴の一声があった。同時期に入った仲間よりも人一倍働いていたから認められた瞬間だ。
信用は実績だった。
そこから仕事はあるから稼ぎまくった。宵越しの金は持たない、そんなの当たり前。職人だからね。腕一本で仕事がくるんだよ。
好きで入った道だったらとことんやる、それが今の若い人には足りないところかもしれない。しかし、時代の流れとともにどんどん仲間も減っていった。







ゆかた

昼間氏は弟子は取らない。なかなか生活するのが難しいからだ。それだったら呼ばれるところで教える事にしている。少しでもいいから。
 全国には私を応援してくれる人が5人いて、そこから多く広がっている。だから最後まで草加で頑張りたいし、埼玉県の伝統工芸士だから。
 月に数回はいろんなところで講座を開いて応援してもらえる人を求めている。残さなくてはいけない技術と伝統を伝えるために、少しでもいいから染め物に触れてもらいたいと思っている。

写真は草加市新里文化センターの講座にご参加された皆さんと記念写真

昼間時良氏

昼間時良氏

昼間時良氏の作品-1

昼間時良氏の作品(1)

草加市文化センターの染物展示-1

草加市文化会館の染物展示(1)

◇「東京本染(ほんぞめ)」の本場は、実は埼玉県!?

「もともと本染めは埼玉県東南部が多かったので、東京本染の本場は草加近辺なんです」
昼間時良氏は埼玉県でただ一人の東京本染の伝統工芸士。かつて草加の産業として栄えた本染めの伝統技術を伝えるための活動を行っている。

ゆかたは江戸時代に入浴前後に着る着物として庶民に広まった。
ゆかたや手ぬぐいの藍(あい)染めの技法を持つ職人たちは、染め物を洗うための水がある神田川の流域に集まり、木綿に細かでおしゃれな模様を染めて、粋な江戸っ子たちを楽しませながら進化する。

ところが神田は江戸の大火の多発地帯。工場が焼けてしまった神田の染め業者たちの多くが移り住んだのが、日光街道を下った先の、良質な水と原料がある草加エリアであった。
その後、江戸から明治、大正、昭和の中頃にかけて、草加は圧倒的な生産量を誇るゆかたの一大産地となった。

東京本染には「東京」の名がつくが、実は草加が主流。草加エリアを中心とする埼玉県東南部がゆかた生産の本場で、最盛期は草加エリアで300万反もの年間生産を誇った。
しかし、「ネーミングをつくるにあたって、『東京本染』とついたほうが、ネーミングがよかったから」と昼間氏。たしかに全国区に売り出すのにはわかりやすい。
いまでは「草加本染」と表現することもあるが、お隣の千葉県に「東京ディズニーランド」ができる前から、埼玉県には「東京本染ゆかた」の文化があった。

昼間時良氏の作品-2

昼間時良氏の作品(2)

昼間時良氏の作品-3

昼間時良氏の作品(3)

昼間時良氏の作品-4

昼間時良氏の作品(4)

◇本染めの良さと楽しみ方

本染めの良さは「すべてが手づくりであることです」。
使われる素材や原料なども、すべて自然のものを使うのが伝統である。
生地には木綿が使われるので、化繊とは異なる木綿の肌触りの良さは代えがたいものがある。

そして、本染めの一番の特徴は、表も裏も同じように染まる「染め抜き」だ。
染料で生地を染め抜くと、裏面にも表面の模様がきれいに反転され、デザインによっては表裏の判別ができないくらい美しく染まる。
一方、機械で大量生産できるプリントでは生地の表面にインクを乗せるので、裏面は裏写りしたように透けたような発色となり、表裏の判別は素人でも簡単にできる。
「機械で染めた製品と、手づくりの製品では肌触りが異なるので、実際に触ってみてほしい」という。

大量生産のできない少量の手づくりだからこそ、一枚一枚の製品がオンリーワンの存在となる。
昼間氏の本染めゆかたの染め方の技法は、「注染(ちゅうせん)」と呼ばれる日本独自のもの。東京本染の半数近くで使われ、高級品として扱われた。

ところで本染めなどと聞くと、手入れが大変と思うかもしれないが、日常生活で使う衣類と扱いは変わらず普通に洗濯してもまったく問題はない。
むしろ、本染めで染められたゆかたや手ぬぐいは、洗濯して「使えば使うほど風合いと魅力が増す」のも特徴。おろしたての洗濯時は色落ちが出るものの、以降は普段着のように使うことができる。

江戸時代から一番ポピュラーな色は「藍色」。英語ではインディゴというが、ジーンズで使われるデニム生地の糸はインディゴで染められている。
洋の東西を問わず、染め物は使い込んだ風合いを楽しむのが王道ともいえる。

昼間時良氏の演説

昼間時良氏の説明

草加市文化センターの染物展示-2

草加市文化会館の染物展示(2)

◇魅力と伝統を伝える活動へ

昼間氏は、美術大学や市の講座などをはじめとして、小学校から中学校、高校と依頼があれば全国どこにでも行き、東京本染の講習をして実習指導を行う。
昼間氏はあらゆる現場の経験をしてきたので、プロの染工の方々にも経験を伝える。

受け持った美大の授業の様子を伺うと、学生たちの反応は「とてもすばらしい」という。美大では、下絵や型紙づくりから指導した。染めるデザインももちろん学生それぞれのオリジナル。
学生たちは自分で染めた生地で、ゆかたはもちろん、帯や下駄の鼻緒と、上から下までのすべてを自分の作品としてつくり、作品の発表会も行う。
「学生たちの発想力はすごい」と嬉しそうに語る昼間さん。「私しか学校で指導できないから」と語る。染め物の魅力をもっともっと伝えたい、という気持ちが精力的な活動につながっている。